映画『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』公式サイト | 4/26(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開

映画『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』公式サイト

INTRODUCTION

ユダヤ人街で暮らしていた、7歳を迎えるエドガルド・モルターラが教皇領の警察により連れ去られた「エドガルド・モルターラ誘拐事件」。悲嘆に暮れながらもあらゆる手立てを講じるべく奔走する両親と、時の権力強化のため決して返還に応じようとしない教会側の争いは、イタリアをはじめ、時の皇帝ナポレオンやロスチャイルド家ら、全世界を巻き込んだ論争を紛糾させた。スティーヴン・スピルバーグが魅了され、映像化に向けて書籍の原作権を押さえたことでも知られているが、映画化を実現したのはイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ。国家、教会、マフィアなどの絶対権力の歪さや、それに翻弄される人々の運命をイタリアの史実をベースに描き続けてきた彼が、その集大成とも言える衝撃作とともに舞い戻ってきた。監督が「突き詰めていくと、合理的な説明をすべて覆す人物像が浮かび上がって来る」と語る通り、エンドロールを迎えるその直前まで、エドガルドが迎える数奇な運命とその選択を、固唾をのんで迎えることになるだろう。

STORY

1858年、ボローニャのユダヤ人街で、教皇から派遣された兵士たちがモルターラ家に押し入る。枢機卿の命令で、何者かに洗礼を受けたとされる7歳になる息子エドガルドを連れ去りに来たのだ。取り乱したエドガルドの両親は、息子を取り戻すためにあらゆる手を尽くす。世論と国際的なユダヤ人社会に支えられ、モルターラ夫妻の闘いは急速に政治的な局面を迎える。しかし、教会とローマ教皇は、ますます揺らぎつつある権力を強化するために、エドガルドの返還に決して応じようとしなかった…。

STAFF

*映画タイトルの後ろの()の数字は日本公開年。未公開や映画祭イベント上映の場合は、(未)と制作年を記載

監督・脚本:Marco Bellocchio
マルコ・ベロッキオ

1939年ピアチェンツァ生まれ。1959年、ミラノにあるサクロ・クオーレ・カトリック大学での哲学科を中退し、ローマの映画学校イタリア国立映画実験センターに入学。1961年から1962年にかけて短編映画『La colpa e la pena』、『Abbasso il zio』、『Ginepro fatto uomo』(いずれも原題)を監督。その後ロンドンに移り、スレード美術学校で学ぶ。長編デビュー作『ポケットの中の握り拳』(1983)は1965年のロカルノ国際映画祭で銀の帆賞を受賞し、国際的な評価を得る。2011年にはヴェネチア国際映画祭で栄誉金獅子賞を受賞。 2016年の『甘き人生』(2017)はカンヌ国際映画祭監督週間のオープニング作品となった。2019年、『シチリアーノ 裏切りの美学』(2020)はカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、6つのダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞と7つの銀賞を受賞した。2021年、ドキュメンタリー映画『マルクスは待ってくれる』をカンヌ国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門に出品し、同年のパルム・ドール・ドヌール(名誉パルム・ドール)賞を受賞。2022年、ヨーロッパ映画賞を受賞し、18のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞にノミネートされた「夜のロケーション」のプレミア上映のために再びカンヌに参加した。

CAST

Paolo Pierobon
パオロ・ピエロボン(教皇ピウス9世役)

1990年代の激動のイタリアの政治情勢を描いた人気テレビドラマシリーズ「1993」、「1994」でのシルヴィオ・ベルルスコーニ役でも知られる。マルコ・ベロッキオ監督作品では『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(2011)、イタリア映画祭2023で上映された「夜のロケーション」に出演。本作『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』の演技が高く評価され、2023年ナストロ・ダルジェント賞助演男優賞、金鶏奨の主演男優賞受賞を果たした。

Fausto Russo Alesi
ファウスト・ルッソ・アレジ(サロモーネ(モモロ)・モルターラ役)

主な映画出演作品に、ジュゼッペ・カポトンディ監督作『時の重なる女』(未・2009)、セルジオ・カステリット監督作でペネロペ・クルスが主演を務めた『ある愛へと続く旅』(2013)、マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督作『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』(2013)など。『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』に始まり、『私の血に流れる血』(未・2015)、『甘き人生』、『シチリアーノ 裏切りの美学』ほか、2023年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞助演男優賞にノミネートされた「夜のロケーション」まで、近年のマルコ・ベロッキオ監督作品に出演。出演6本目となる本作で、2023年ナストロ・ダルジェント賞主演男優賞にノミネートされている。

Barbara Ronchi
バルバラ・ロンキ(マリアンナ・パドヴァーニ役)

2010年『La città invisibile(原題)』でスクリーンデビュー。2016年に、マルコ・ベロッキオ監督に抜擢され、『甘き人生』に出演し、2017年バーリ国際映画祭助演女優賞を受賞。近年の出演作に、カルロ・シローニ監督作『ソーレ-太陽-』(未・2019)、フランチェスコ・ブルーニ監督作『きっと大丈夫』(未・2020)、クラウディオ・ノーチェ監督作『我らの父よ』(未・2020)などがある。マルコ・ベロッキオ監督との2本目のタッグとなる本作では、2023年ナストロ・ダルジェント賞主演女優賞受賞に輝いている。

Enea Sala
エネア・サラ(少年期エドガルド役)

ローマとボローニャでの数ヶ月におよぶキャスティングを通して、マルコ・ベロッキオ監督に見事抜擢される。映画初出演となった本作で俳優デビューを飾る。

Leonardo Maltese
レオナルド・マルテーゼ(青年期エドガルド役)

1997年、イタリア、エミリア=ロマーニャ州ラヴェンナ生まれ。ジャンニ・アメリオ監督に大抜擢され、『蟻の王』で映画デビュー。ルイジ・ロ・カーショ演じる主人公と恋に落ちる青年エットレを熱演し、2022年ヴェネチア国際映画祭の新人賞、RB キャスティング賞の2部門、2023年ナストロ・ダルジェント賞グリエルモ・ビラーギ賞を受賞し、注目を集める。今後の活躍が最も期待される若手俳優の一人である。

COMMENT(順不同)

幼少期に家族のもとから連れ去られ、信仰や人格を変容させられたエドガルド。取り戻そうとする家族と青年になったエドガルドとの確執は、植え付けられた信仰を巡る宗教カルトからの脱会トラブルを想起させる。
幸せな家族を引き裂いたものの正体を描いた問題作。

―鈴木エイト (ジャーナリスト・作家)

「あなたは神父となり、ローマ教会に人生を捧げるのだ」。時は 1858年。教皇法は「絶対もの」。ヘブライ人、7歳のエドガルド君に対しても。紡がれるのは宗教と世俗的な権力に汚された親の絶念、子供の無垢さ、親子思いの不撓不屈の物語だ。神の掟は母の涙の目前でさえ屈しないものなのか?魅惑的だが、残酷なイタリアを舞台にした夢中にさせる拉致事件。最後のフレームまで胸を膨らませる。

―パントーフランチェスコ (慶應義塾大学病院精神神経科教室、精神科医)

ベロッキオはつねに社会に対し異議を唱えてきた監督である。子供が監禁され、母親が狂気へ向かう。いたるところに暴力がある。この世界は病気であり、歴史とは母親の悲しみなのだ。だが母親と違う神を信じるにいたった息子の悲しみを、誰が知ることだろう。

―四方田犬彦 (映画誌・比較文学)

ユダヤ教徒だったナザレのイエスは、ユダヤ教を内部改革しようとしてユダヤ教守旧派の企みで処刑された。その後にイエスの弟子たちが広めたキリスト教は西欧社会の精神的インフラとなり、イエスを殺害したユダヤ人への差別や迫害はさらに激しくなった。この前提を知らないと現在の宗教地図が理解できなくなる。世俗と聖性、心の支えだけど危険。本作では信仰の二面性がこれでもかとばかりに描かれる。際どいテーマだ。正面から挑んだマルコ・ベロッキオの胆力には驚嘆する。

―森達也 (映画監督)

ある家族が強引に離ればなれにされ、永遠に引き裂かれてしまう悲劇の物語を丁寧に描きながら、同時に教会権力の衰退とイタリアという国の誕生につながる壮大な歴史をも見せてくる。
このミクロとマクロを同時に描く離れ業こそ、ベロッキオ監督作品の醍醐味だ。

―壺屋めり (イタリア美術史研究者)

約150年前の誘拐事件を描く本作は現代にも通じる多くの課題を突きつけている。信仰をめぐる戦争とカルト教団による洗脳は現在も続いているからだ。それに加えて、子どもの人格形成や親子のつながりとは何かという重い問いは見る者を揺さぶるに違いない。

―信田さよ子 (原宿カウンセリングセンター顧問・公認心理師)

洗礼という儀式にすぎない行為が幼い子供とその家族の人生を歪ませていく物語。
観る人によっては混乱や怒りを覚えるかもしれません。
さらに残酷なのはその子供が宗教上の駒にされていく様です。
考え方次第で狂気が正義となってしまう現実を思い知らされる作品です。

―惣領冬実 (漫画家)